やってはいけない三原則その1 「土を入れる」

  濁ったビオトープ

写真のように泥で濁ったビオトープを良く見かけます。濁りの原因は言うまでも無くビオトープの中に土を入れているからです。どうしてわざわざ濁りの原因となる土をいれるのでしょうか?理由を聞くと

・水を浄化するため 

・水生植物に栄養を与えるため

・自然と同じ雰囲気にするため 等々 

「ビオトープには水質浄化作用がある」と言われますが、多くの人がこの意味を誤解しているようです。特に「土の中にいる微生物(バクテリア)が水質浄化する」という情報を取り違えているケースが多いようです。

そもそも自然界のビオトープ本来の水質浄化機能とはどういうものなのでしょうか。

自然界のビオトープの水源となる雨や雪は、大気中のちりやほこり、酸性雨の原因となる窒素やリンなど、様々な物質を取り込みながら地上に降り注ぎ、大地へと浸透されていきます。降水はスポンジフィルター状の土壌を通過し高地から低地へゆっくりと流れていく過程で物理的にろ過され、徐々に清澄な水になっていきます。これを「物理ろ過」といいます。(図1)

更に、水質汚濁の原因となる窒素やリンなどは、植物やバクテリアの養分として吸収し、代わりにミネラル分(カリウム、カルシウム、マグネシウムなど)を水に含ませながら水質浄化されていきます。これを「生物ろ過」といいます。(図2)このような自然のしくみは専門用語で「水源かん養機能」といいます。

        図1

         図1 水源かん養機能のしくみ(出典:社団法人日本水道協会 

 

   図2

          図2 水源かん養機能による水質浄化効果(出典:林野庁

 

つまり、自然界のビオトープ本来の水質浄化作用とは、大地からなる巨大なろ過装置の「物理ろ過」「生物ろ過」という2つの工程を経てはじめて実現するものなのです。長野県の安曇野、山梨県の忍野八海などで見られる美しい湧水郡は、このように大地でろ過された水が低地に現れたものです。単に雨水が溜まってできた「水溜り」や「沼」が濁っているのは、このような水質浄化作用を経ていないからです。

ビオトープ 湧水池 

   自然の水質浄化作用を経た清澄なビオトープ(静岡県柿田川湧水郡)

 

それでは自然界のビオトープと、お庭に人工的に作るビオトープのしくみを比較してみましょう。お庭にビオトープ作る時には、水を溜めるために成型池などを用いて防水層を作らなければなりません。防水層を作るということは、そこで大地と遮断されるということですので、先述のような自然の物理ろ過、生物ろ過作用も遮断されてしまいます。つまり、人工的に作られたビオトープには基本的に水質浄化機能はありません。そこで、「土の中には水を浄化するバクテリアがいる」というネットの情報を鵜呑みにし、土や荒木田(田んぼの土)をビオトープの中に入れれば水質浄化(生物ろ過)されると思っている人が多いのですが、これが大きな間違いなのです。そもそも荒木田等の土は水質浄化を目的としたものではなく、稲や植物を育てることを目的とした栄養満天の土なのです。確かにバクテリアも含まれていますが、それ以上に水質を悪化させる元となる肥料分(窒素やリン)が大量に含まれていますので、水質浄化に利用できるシロモノではありません。つまり、水質浄化のためにビオトープに土を入れるということはまったくの逆効果で、むしろ水質悪化の原因となるのです。アクアフォレストのビオトープがいつも清澄な理由の1つは、土を絶対に入れないからです。

それではどうしてこのような誤解が生まれてしまったのでしょうか。確かに稲を植えたばかりの田んぼの水は澄んでいることが多いのですが、これは単に土が沈殿して澄んでいるだけで、まだアオコが発生する前の状態です。田んぼを良く見ると20cm位の間隔でびっしりと稲が植えられており、荒木田の栄養分をぐんぐんと吸収しています。更に、成長した稲は水面が見えなくなるほど穂が生い茂らせますので、日光を遮光して藻類の光合成をブロックしてしまいます。このように稲をびっしりと植えた状態だからこそ、栄養分たっぷりの田んぼでもある程度きれいな水質を保てるのでしょう。仮に稲を植えずに水だけを張った状態にしておけば、いずれアオコが大発生することになるでしょう。

 

田んぼ ビオトープ 田んぼ アオコ

            田んぼの水は最初は澄んでいてもいずれアオコが発生する

 

それでは、お庭のビオトープに土を入れるとどうなるでしょうか。完成して2〜3日すると水が澄むことがありますが、それは稲を植えた直後のように単に泥が沈殿しただけの状態。バクテリアが繁殖して水質浄化を始めるまでには1カ月位かかりますので、その間水の中には栄養分がタップリと含まれており、藻類が大繁殖するには最高の環境です。栄養分を吸収させるために水生植物を植えるにしても水面が見えなくなるほど植えるわけにもいきません。そうすると、水生植物が吸収しきれない栄養分と光合成により藻類が大繁殖を開始し、いざバクテリアが活動を始めても水質浄化しきれずに水は濁ったまま、という結果になるわけです。インターネット上では「赤玉土を熱湯で消毒してから使う」というような情報もありますが、確かに赤玉土はほとんど栄養分が含まれていないため富栄養化を引き起こすことはないのかもしれませんが、一たび土が溶け出せば味噌汁のように濁った状態となってしまい、魚を鑑賞して楽しむこともできません。「ビオトープ用の土」なる商品も売られているようですが、「土」である以上何を使用しても同じです。アクアフォレストのお客様の中にも商品名につられて「これなら大丈夫だろう」と思いネットで購入しビオトープに入れてしまった方がいたのですが、途端に水が濁りはじめたとの連絡をいただいたことがありました。

ビオトープには、魚の排泄物を栄養にしてプランクトン(微生物)が繁殖する⇒魚はそのプランクトンをエサとして消費する⇒更に水生植物が余分な栄養分(リンや窒素等)を吸収して育つ、というサイクルによって水質浄化されるのですが、土を入れたことによってサイクルのバランスが崩れ(冨栄養化)植物性プランクトン(藻類)が過剰繁殖して水を濁したのでしょう。一般的に水生植物は土の入った鉢に植えられて販売されていますが、これは生産業者が水生植物を効率よく生産するために栄養分たっぷりの土を使用しているのであって、そのままビオトープに入れてしまえば途端に富栄養化を引き起こしてしまいます。先述の通りビオトープの水中には適度な栄養分がありますので土が無くても水生植物は十分に育ちます。むしろ、ビオトープのサイクルバランスを崩さないよう、水生植物の根に付いた土を良く洗い流す必要があるのです。

そして何よりも問題なのは、土を入れたビオトープには循環用の水中ポンプを設置しても土を吸い込んですぐに故障してしまうため、水の循環ができないということです。遮水シートを敷いてその上に土を被せる、という簡易な方法でビオトープを作ってみたがアオコが発生してしまい困っている、という方からご相談を受けたことがあるのですが、「なぜそのような作り方をされたのですか?」と質問したところ、遮水シートをネット販売するある業者のサイトに「遮水シートの上に土を被せる」という施工方法が紹介されているそうです。更にその中には「水の循環はせず水たまり状態で良い」「いつも水が澄んでいる必要はない」「電気代が掛かるから循環用ポンプは使用しない方が良い」「少しくらいアオコが発生しても気にしなくても大丈夫」等々、ビオトープの専門家から見れば恐ろしくなるような情報がたくさん載っているそうですが、 これらの情報を鵜呑みにしたままビオトープを作ってしまい、このような結果になった、というわけです。ビオトープに発生するアオコの毒性についてのページで詳しく説明しましたが、アオコには毒性がありますので、子供やペットが触れる可能性のあるガーデニング分野のビオトープでは絶対に発生させてはなりません。そのためにはやってはいけない三原則その2 「溜池状態にする」で詳しく説明しました通り、衛生的なビオトープを作るには水を濾過するための循環は必要不可欠であり、そのためにも土は絶対に入れてはいけないのです。「少しくらいアオコが出ても気にしなくて大丈夫」などという誤った情報を発信しながら遮水シートなるものを販売する業者がいるのであれば、ビオトープを作るお客様側の安全性や利益を考えていないのでしょう。正しい情報の見分け方のページでご紹介しました通り、ビオトープ作りで失敗しないためには、ビオトープ作り専門のプロから情報を得るのが間違いありません。

 

ビオトープに土を入れるということは、誤ったネット情報から広まった迷信であって、全く理にかなっていないという事がご理解いただけたでしょうか?自然な雰囲気にしたいのであれば、森の中にある澄んだ水辺を良く観察してみましょう。きれいな水質を保っているビオトープには必ずせせらぎがあります。湧水や清流の底を見ると、濁りの元となる土や泥はせせらぎに押し流され、底には石や砂が残されています。美しいビオトープを作りたいのであれば、土ではなく、小石を敷くのがベストです。(砂は水中ポンプを詰まらせる可能性があるのでお勧めできません)ビオトープの水には魚の排泄物や落ち葉などから作られる適度な栄養分が含まれていますので土が無くても水生植物は十分に育ちます。ビオトープに使用する小石は吸水性が高く、表面に細かな凹凸があるものを使用するとバクテリアが繁殖しやすく水質浄化により効果的です。

  ビオトープ 池

          土を入れないことが澄んだビオトープ作りのポイント